今日まで毎日はとてつもなく退屈だった。 話ス相手ガイナイカラ。 むろん、人など街中に溢れている。あんまり多くて、今にもこの狭い地上から溢れ、 こぼれ落ち始めてしまいそうなくらい、数はいる。 しかし、瞬一には一人もいないのと同じだった。 ダッテ、誰ヲ見テモ、誰ニ会ッテモ、話シタイト思ワナイカラ。 ダカラ、イテモ、イナクテモ、同ジナンダ。 結局、誰モイナインダヨ、地球(ココ)ニハ。 物心ついて以来、他人との交流を望んだ覚えはなかった。だが、こうして人と して生まれ、人の世界で生きている以上、当然、瞬一もひっきりなしに誰かに 話し掛けられるし、誰かに話し掛けなくては生活は出来ない。 ソレガ人間ノ生活ナンダロ? 否応なく人は一件ずつに対処しなければ生きて行けない。結果、瞬一も話し 掛けられれば応ずるし、その人当たりも悪い方ではない。 要領、大切ダカラネ。 しかし、そんな時、腹の底で思うことは、いつも同じだった。 早ク通リ過ギテ欲シイ。 向コウニ行ッテ。 そう願うばかりだった。 明日モ、マタ会イタイナンテ、一度モ思ッタコト、ナイ。 ソンナ人、イナカッタカラ。 今日まで出会う人間、全てが疎ましかった。十七年かけて、誰とも出会わなか った経験から量るに、これから先、望む出会いがあるとは思えない。 ダケド、ヤッパリ、退屈ハ嫌ダ。 この現状をどうにかしたいという熱望は持っている。退屈に苛まれ、苦しむ 毎日。どうして自分が退屈しているのか、その理由は明白で、何とか“それ” を解消出来ればいいと願っている。願いはいつも、一つだけだった。 誰カ、話シ相手ガ欲シイ。 タッタ一人、イレバイイ。 ソウスレバ、コンナニ退屈シナクテイイノニ。 話し相手を欲している。 瞬一だって、話したい。その欲求を自覚している。 痛いくらい、実感している。 話シタイ。 デモ、イナカッタンダ、誰一人。 今日まで、どこにも適当な相手がいなかった。出会わなかったから、話す相手 がいず、こうして退屈に甘んじている。 ___適当、か。難しいよな。条件にピッタリ当てはまるのを適当って、言う んだろ? どうでもいいなんて意味じゃないよな、本当は。 瞬一は思うのだ。本当に誰でもいい、どんな相手でも構わないと、そう妥協 することが出来たら。そうすれば、話し相手などいくらでも出来る。何しろ、 学校には百人単位で生徒がいて、塾にも通っている。同じ年頃の話し相手には 事欠かないはずだった。 デモ、ソレジャ、ダメナンダ。 嫌ナンダ。 我慢ナラナインダ。 ダッテ、誰モ、オレノ好ミジャナイ。 アンナ嘘吐キデ、罪デ薄汚レタ奴ラトハ、口ヲ利ク気ガシナインダ。 ダッテ、オレガ欲シイノハ、、、、。 瞬一はゆっくりと瞬いた。 頭の中にははっきりと、決して譲れない理想があった。日々、想像になぞら れ、輪郭を濃くして、次第に強く浮かび上がって来る理想像。子供の頃から、 ずっと、ひたすらに、いつか得たいと望んで来た理想の話し相手。“彼”は 決して、嘘を吐かず、いつも瞬一の傍にいる。瞬一だけの話を聞き、瞬一の ためにだけ、楽しい話をしてくれる。 ソシテ、綺麗ナ目ヲシテイテ、話ス声ガ優シクテ、当然、顔ダッテ、、、。 ふと我に返り、瞬一はため息を吐く。 ___アホかもな、オレ。これじゃあ、無理難題ふっかける“かぐや姫”と 同じだよな。所詮、友達、作る気なんか、ないんだ、オレ。 無理は百も承知している。 だが、それでも、どうしても妥協はしたくなかった。思い描く理想の友人は 実在し得ない。それは人として存在するはずがない、夢で清められた理想で あって、人として生きていられるはずがない条件なのだとわかっている。 ダケド、オレハ妥協シタクナイ。 ___オレの望むような、そんな清らかな人なんて、この世にはいないって 知っている。だけど、諦めたら、それまでだ。どんな挑戦だって、諦めたら、 そこで終わる。だから、息がある内は諦めたらいけないんだろ? まだ可能性 があるって信じ続けなきゃ、可能性なんて一瞬で消えてしまうんだろ? 逆に 言うなら、どんな無謀な挑戦でも、信じている内は可能性があるんだろ? 願い事はいつも同じだった。『棒ほど願って、針ほど叶う』昔、祖母に教え られた言葉だけを信じたい。 他ノ何モ望マナイ。 他ニハ何モイラナイ。 ダカラ、オレハ、天使ガ欲シイ。 神様、オレニ天使ヲ下サイ。オレダケノ、本物ヲ、、。 |
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