メッチャ綺麗ヤ。
至近距離で見るそれはとても美しい。言葉も忘れ、ただ見入る。
「お〜い。デコ」
「デコッぱちぃ〜」
邪魔者もいるようだが。
「お、ピクッとした。反応したぞ」
「聞こえてたんだ? てゆーか、自覚してたんだな、自分がデコッぱちだって
ことをさ」
「そりゃ気付くだろ? 実際、出てんだもん。ボコッとこぶみてぇなのが」
「こぶ? じゃ、瞬一って、こぶ取り高校生だったんだ? だっさぁ」
コウの軽口にレンが悪乗りするが、瞬一は気に留めない。
ダッテ、花火見テイル方ガエエモン。
メッチャ綺麗ヤ。
「そういや、こぶ取り爺さんってさ、軽くホラーじゃねぇか? 人間て、あー
ゆう、ちょいとぐろい話が大好きだよな」
「うん、うん。じゃ、瞬一のこぶも着脱可能だったんだぁ? 怖〜い」
散々、悪乗りしておいて、ふと気恥ずかしさを覚えることもあるらしい。レン
はすぐにおとなしくなった。
ソヤナ。
結構、年増ラシイモンナ。
恥ズカシイワナ、ソリャ。
「おい、瞬一。ここら辺、片っ端から突っ込む所だろ? 満載だろ?」
「聞いてんのかよ? 無視かよ、おい」
早口に凄んでいる様子だが、今更、取り合う気にもなれない。
___大体、オレは今、忙しいんだよね。
見たい物を見る。その欲求に従い、ひたすらそれに集中したかった。
「瞬ちゃんv」
「瞬君vv」
今度は二人揃っての猫撫で声攻勢だ。
本当ニ煩イナ。
セッカク、綺麗ナ花火見テイルノニ。
邪魔セントイテ。
「痛っ」
衝撃に悲鳴を上げ、さすがに意識を取り戻して、自分の額に命中し、ポトン、
と足元に落ちた何かを拾い上げてみる。ガムシロップ。どうやら向かいの席に
座っていたレンの仕業のようだ。
「何すんねん? 痛いやんか?」
「おまえが十五分も無視し続けるから、だ」
「十五分も、って」
十五分もの間、あれやこれやと瞬一の気を惹こうと、頑張っていた二人の方が
よほど不可解だ。
何、考エテンダロ?
イイ大人ヤノニ。 
「おまえ、どこ、見てたんだよ?」
レンの斜め隣、こちら側に座ったコウがボソリと尋ねる。
「花火に決まってんじゃん」
「嘘を吐け」
ばっさりとコウは切り捨てる。
「嘘やないやん?」
「じゃ、正確に言えよ」
正面を向いたままだったコウがこちらに向けて、座り直した。
「正確にって?」
「おまえが見ていたのは花火じゃなくて、タカシの“目に映った”花火だろ?
全然、違うじゃねぇか? つまり、おまえはずーっとタカシばっかり見ていた
んだよ。イヤらし〜い顔してさ」
「口が開いてた。涎垂らしてた」
「垂らしてへんわ!」
ふいにニコリと笑って、レンは右手を挙げた。
「はい」
「何ですか? 三代さん」
「本案件に関する重大な証拠があります」
「提示を許可します」
何ゴッコヤネン? 
突っ込みたいのは山々だが、せっかく楽しげに興じている二人の邪魔をして、
後々、自分が得をするはずがないことくらい学習済みだった。絶対、倍返しに
される。そう心得て、仕方なく瞬一は黙って、レンの手元を見た。
___携帯? あのストラップは、、、。
「いかに瞬一君が熱心にタカシの顔を見ていたのかを示す、証拠の画像がここ
にあります」
「えーっ、何、すんねん? 勝手に撮るなや。盗み撮りやんか」
「何言ってんだよ? うすら馬鹿。あんなに“今、撮影していますよ”って、
大袈裟なシャッター音が鳴っているのに気付かないおまえがおかしいんだよ」
「コウの言う通りだよ。いくら花火がドン、ドン上がっていたって、この距離
だよ? 普通、気付くだろ? もうね、この顔、超イヤらしいの。見て、見て
よ。コウ、これだよ」
「うわぁ、おまえ、見過ぎだよ。タカシ」
コウは自分の隣、瞬一から見れば斜め隣に座ったタカシの、瞬一側の頬を覗き
込む。
「そっち側の頬っぺ、無事? 瞬一の怪しい熱視線で焦がされてんじゃねぇの
? ジリジリしなかった?」
「本当、ヤバイよ。瞬一の目から変な光線が出てたもん。タカシ、好き好き、
大好きv光線が出てたね」
「何やねん、それ? 有り得へん」
「自分の目で見て、確かめなよ。これって、正気の人の顔かよ?」
テーブルの向こうから腕を伸ばし、レンが携帯を渡してくれた。
「これ、やっぱり、タカシの携帯やん?」
オレガ贈ッタ、、、。
もっとも、レンがタカシの携帯を借りるなど、難しいことではない。貸してと
一言、言えば済む話なのだ。
仲良シヤモンナ。
気を取り直し、中の画像を見る。
、、、。
「ほぉ〜ら、己が醜態に絶句するだろ? オレ達だって、最初の十五分は普通
に花火見ていたよ。だけど、おまえのそのアホ面に気付いてからの十五分間は
ずうーっと、おまえばっかり見てた。だって、凄いんだもぉん。何、それ? 
こうね、頬杖付いて、斜め隣のタカシを一点凝視なの。それもず〜っとだよ?
 おかしいよ、おまえ。すっげぇ嬉しそうなんだもん」
「タカシもさ、少しは嫌がれよ。そいつ、不審者だよ? 変態なんだよ?」
「変態?」
真顔のまま、コウの言葉をオウム返しに問い返すタカシの様子に慌てて、瞬一
も立ち上がる。
「コウ君、何を言うとんねん? オレ、そんなんとちゃうで? タカシも真に
受けんといてな。いつもの悪い冗談なんやからな」
「焦ってる。焦ってる。やましいことがあるんだ?」
「やっぱり、瞬一、変態君なんだ?」
「ちゃうって!」
「真っ赤になってるぅ」
「うへっ、茹で立て状態だよ、おまえ。だっせぇ」
「二人共、笑い過ぎですよ」
身を捩って笑い続ける二人をタカシがたしなめた。
「二人共、瞬一は良い子だと知っているのに、どうして、そんな意地悪を言う
んです?」
「うーんとね、好きだから」
「そうそう。大好きなの」
「好きなら、優しくしてあげればいいのに」
「あのね、タカシ、オレ達、人間界が長いからさ。もしかしたら、人間の変態
ぶりが感染しちゃったのかも知れないね」
「意地悪って言うかさ。からかわずにはいられないんだよ。だって、超面白い
んだもん、こいつ」
「コウまで」
「ええねん、タカシ。オレはタカシさえ、おってくれれば」
「おまえ、どさくさに紛れて、何、言い出すんだよ?」
「本当、油断も隙もあったもんじゃない」
「さてさて。残りの花火を堪能しようぜ。変態瞬君のおかげで中断しちゃった
からな」
「そうそう。あっ、タカシ、ちゃんと食べてる? アイスティーもいいけど、
食べないとあんた、身体がもたないよ?」
「そうそう。夏はもちろん、秋だって、夏の疲れが出て危ないんだから」
「食べていますよ。ほら、瞬一も」
「いいんだよ、そんな奴、放っておけば」
「コウ」
「大丈夫だって。人間は食う、寝る、何とかは絶対、忘れないんだから」
「何とか?」
ゲラゲラと笑い出すコウにレンが拗ねて見せる。
「だって、言い難いじゃん?」
「そりゃ、そーだ」
座って。タカシがそう促してくれた。結局、いつものように“じゃれている”
だけだ。
___慣れって本当、怖いよな。いじられまくっているのに、楽しいような気
がするもんな。上手に遊ばれているだけのような気もするけど。

 歓声を上げてはしゃぐ二人と、楽しそうに微笑んだ、もう一人。その天使、
三人と一緒にもぐもぐとピザを頬張りながら、花火の残り時間を考える。あと
何分だろう? 腕時計の針を確認し、ふと、タカシの様子が変だと気付いた。
花火はテーブル越しに見る恰好となっていた。実際、タカシの向こう隣に座る
コウは真っ正面を向いて笑っている。しかし、タカシは身体を捻って、花火に
背を向ける形で座っているのだ。
「タカシ?」
彼は暗い、ただの夜空を見ているようだ。
「どうしたの?」
二人も異変に気付き、タカシを見た。
「タカシ?」
コウの声に答えることもなく、タカシは立ち上がる。彼はそれなりの、精一杯
だろう早足で、暗いばかりの夜空が待つ方向へ向かい、手すりを握り締めた。
「コウ? タカシ、どうしたの?」
「そこにいろ」
一声で答え、コウも席を立つ。
「何か、、、。変じゃない?」
何かを感じるのか、不安そうに辺りを見回すレンを残し、コウがタカシの方へ
歩き出す。自分はどうすればいいのか? 迷いながら瞬一も、コウの後を追い
始めた。その時だった。
うっ。
思わず、呻き声を上げて、両腕で目を覆う。突然の、目を突き破りそうなまで
の閃光。風圧のようなものさえ感じ、よろめいて、必死に踏み止まる。
何ヤネン、コレ? 
「タカシ!」
コウの叫び声に驚き、懸命に眩しさを堪え、目を開けて見た、その先。
「タカシ」
叫ぶしかなかった。天使の姿なら、もう何度も見た。美しい白い翼に見慣れも
した。だが、今はただ、息を呑む。
何ダ、アレハ? 
 タカシの背にあるもの、それは今、両翼だけではなかった。冥界の“蓋”で
見たさんざめく眩い光を思い出す。乳白色の地にありとあらゆる淡色が浮かび
上がり、さざめいて、消えたあの光が一対の羽根を象って、両翼の下、そこに
あるのだ。
「行くな!」
コウの怒りをにじませた声も届かない。タカシは地を蹴って飛び上がるなり、
宙へと身を躍らせた。
「タカシーーーッ」
駆け寄ろうとして、だが、コウに止められた。
「コウ君?」
「行った方向はわかるな? だったら、階段を下りろ。オレが、オレの権限で
許す。どこに触ったっていい。何が何でも、すぐに見付けて、おまえが連れて
帰ってくれ。オレには近寄れないんだ。早く、“解ける”前に」
間に合ってくれ。コウは確かにそう言った。

 

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