「後悔? 追放されるに至った“あの一件”に対して、か?」
促されたからとは言え、あまりに不躾な質問をしてしまった。そう気付いて、
項垂れる。
「すみません」
「いいよ。オレがやったことなんだから」
佐原はごくあっさり、言ってのけ、続けた答えも明快だった。
「後悔か。してねぇな。うん、オレは後悔はしていない。間違ったことをした
覚えはないからな。例え、その結果が未来永劫、さまよう魂になることでも、
異存はなかったし、今だって、天界に戻して欲しいだなんて、そんな虫のいい
ことは考えてもいない。ただ」
「ただ?」
「オレはあの時、ささやかでも、例え、彼女自身が望まないことであっても、
誰の、何の慰めにもならないことであっても、そう知ってもいたけど、それで
も、彼女のために何かしてやりたかった。それだけだ」
身勝手な自己満足だけどな。そう小さく、佐原は呟いた。
「あの」
「何?」
「想像が付かないんですけれど。さまようって、大変なんですか? 同じ場所
に長くいられないって、聞きましたけど」
「そうだな。例えて言うなら、そう。目の前で、連続してストロボを焚かれる
みたいな、そんな感じがする、かな」
「ストロボ?」
ハンドルを切りながら、佐原は頷く。
「ああ。瞬きしている間にどんどん、何の脈絡もなく、自分を取り巻く世界が
変わるんだ。一回、瞬いた、それだけなのに、目の前はさっきまでとはまるで
異なる世界に変わっている。時代も、民族も、何もかも。そこに全くの別人と
して、オレはいるのさ。ああ、また振り出しかよ!って、毎回、毎回、まず、
そう思う。だけど、同時にこうも思うんだ。オレは絶対、へこたれない。こう
なったら意地でも、ノリノリでこのケツの座らねぇ人生を楽しんでやるって、
な。そう息巻いて、ずっと生きて来たんだが、なぜか、こないだからビクとも
動かなくなった。ずっと同じ世界に、同じ人間としているんだ。これは一体、
何の因果だろうって、不思議に思っていたんだけどな。どうやらタカシの威力
だったらしい」
「タカシが果樹園の天使、だから?」
「そう。正直、オレ的には助かる。楽だからな。だけど。あまり長く、ここに
留め置いちゃいけないんだろうな」
本来、人間界にいるはずのない果樹園の天使が持つ力が四方八方にこっそり、
影響を及ぼしているらしい。
ソウ言エバ。
一つ所に集うはずのない西ッ側の天使ですら、タカシの元へ集まってしまった
ことがあった。
「あの」
「何?」
「つかぬことを伺いますけど」
「おまえ、えらい古い言葉、知ってんだな。年寄り世帯の子か?」
「お祖母ちゃん子だった、かも」
「おまえの祖母ちゃんなら若いだろう?」
「母親が遅くに出来た子供で、結構、歳いってました」
「なるほど。で?」
不意に話を戻される。
「あ、あの、西ッ側の天使って」
「西ッ側?」
「ええ。どうして皆、同じ姿をしているのかな、と思って。コウ君とレン君は
そりゃあ、雰囲気とか、体型とかそういうのは似ているけど。でも、ちゃんと
個性があるし、タカシと二人はかなり、違うでしょ?」
「おまえ、西の連中にも会ったのか?」
「行きがかりって言うか、タカシを送って家にみえたんで」
「ふぅーん。ろくな死に方しねぇんじゃねーの、おまえ」
「へっ?」
折り良く車は信号を待つため、停車している。ハンドルを握ったまま、こちら
を見据える佐原と、まともに視線が合う。のんきなタカシはもちろん、コウや
レンとも、まるで様子の違う暗い目がじっと瞬一を見つめている。
___もしかして。マジ? 
刺し込まれるようだと思った、その時だった。突然、彼は笑い出したのだ。
「おもしれぇ」
面白イ? 
「ハラワタ、捩れるわ」
「は?」
「馬〜鹿! 引っ掛かってやんの。真に受けてやんの。びびってやんの。恰好
悪〜い」
「へっ?」
「そんなこと、あるわけないじゃん?」
「それじゃ、嘘っぱち?」
「おまえはでこっぱち」
腹を抱え、ケラケラと大声を上げて笑う様子は、あの二人を思い起こさせる。
「ひど、、、。何でやねん?」
「おまえがさっきから、ずぅぅっとイヤらしい手つきで、タカシを撫で回して
いるからだ。罰当たり者が」
「イヤらしいって、別に、オレ、何も。だって、ちゃんと持っててあげないと
タカシ、落っこちちゃうじゃないですか?」
「そういうまともな指摘は受け付けられねぇな」
「ええっ」
「嫉妬っていうもんはな、理屈じゃねぇんだ」
ソンナ、、、。

 

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