子機を手渡し、水を一口飲んで、タオルケットを取りにコウ達が使っている
部屋へ駆けて行く。
「お邪魔しまーす」
自分ノ家ヤノニ。
小さく自分に突っ込みながら客用の部屋に入り、二人分のタオルケットを抜き
取って、またリビングに駆けて戻る。キッチンからは歯切れの良いドイツ語が
漏れ聞こえて来た。
本当ニ、普通ニ話セルンヤ。
___皆、日本語は苦手、みたいなこと、言っていたもんな。
感心しながら、仲良く眠る二人にタオルケットを掛けて、キッチンへ行くと、
ちょうど電話も終わったようだった。
「はい」
「はいって、何?」
自分の方へ差し出された子機をじっと見る。
「戻して来いって、そーゆー意味に決まってんじゃん?」
「嫌や。オレ、それ、使ってへんもん。自分で行き」
「ケチィ」
くねりと身を捩り、いかにも拗ねた様子を作って見せるが、別に気にすること
もないだろう。
「可愛くないから」
ちぇっ。即座に舌打ちされた。
「ノリの悪い奴、ったく。憎まれ口まで叩きやがって。感じが悪いよな。躾が
なってないんじゃないの? 乗れよな、こーゆーユーモアには、さ。ノリノリ
ってさ」
躾云々と言うよりも。
タブン。
___何が悪いって言うたら、きっと、あんたの後輩達のせいやと思うで?
悪い影響受けたんやと思うで? だって、オレ、素直で有名な子やったもん。
お祖母ちゃん子は人が良いって皆、言うてたもん。
決して、良い意味ばかりで言われていたわけではないと最近、気付きもしたの
だが。それには拘らないことにする。
___だって、子供のくせに、すれっからしいうのも、何か、不幸やん?
ボーっと周囲に身を任せていられるほど、自分は恵まれていたと都合良く解釈
し、ちらと壁の時計に目をやった。そろそろ眠らないと、翌日に響くだろう。
「オレ、寝るわ」
「仕方ねぇな。人間は眠らないとマズイもんな」
「人間は、って、佐原さんは寝なくてもええの?」
「オレはある意味、魔物だもん。ほとんど不死身だし。魔物より質が悪いぜ。
することがない時に渋々、寝るって感じ。暇潰しのタヌキ寝入りだな。正味、
月に二、三時間も眠れば、十分だから」
「そんなんでええの? ナポレオンかて、毎日、三時間は寝てたのに」
「これまた微妙な例えだな。ま、いい。オレもここ、片付けて帰るよ。部品が
届いた頃、また来るから」
「それまで来ぃひんの?」
「オレが居座っちゃ、タカシの身体に負担が掛かるかも知れないからな。遠慮
しとくよ」
タカシ。
あんな辛いことを言われた彼の方は大丈夫なのだろうか? 魂を育てる天使が
持つ、特別な力を悪用されては困る。佐原とコウはそこら辺を恐れ、当事者で
あるタカシに釘を刺したつもりならしい。きっと、それは正攻法なのだろう。
デモ、タカシニハ辛イバッカリノ話ヤン? 
魔物に逢いたいという純粋な気持ちをもし、親友に利用されたのだとしたら。
___親玉さんが何を企んで、そんなことをしたんかは、佐原さんにも見当が
付かんようやけど。
寂しい天使。
もしかしたら。
___タカシも、失くした魂の片割れを求め続けとるんやろうか? 
ソウ言エバ。
「受け取って、ってことは魂って、最初はどこで生まれるん?」
瞬一の唐突な質問にまず、佐原は呆気に取られたようにぽかん、と口を開けた
エライアホ面ヤナ、ソレ。
しかし、すぐにその表情は引き締められた。
「馬鹿! そんなこと、人間なんぞに教えられるかよ! ふざけんな」
それもそうだ。
「そうだよね。教えられるわけ、ないよね。え、あれっ?」
「今度は何を思い付いたんだよ?」
いささか呆れ顔で佐原が先を促す。
「あのさ、三代前まで声がなかったのに何で、魂に話し掛けたりとか、出来た
んだろ?」
「おまえって、ぼさーっとしているわりには結構、聞いているし、考えている
ようで実は聞き流しているし、わかんねぇ生き物だな。大体、そのチャンポン
な言葉はどっちかに統一出来ないのかね? おかしいだろ? パンとおにぎり
を交互に食べるようなもんだろうが」
「そんなん、後で聞くから、早く」
「生意気にオレを急くか? ま、いいよ」
佐原は軽く息を吐いた。
「不可解なようだけど、言ってしまえば、簡単な話。こーゆー会話をするため
の、普通の声だけじゃなくて、もう一つ、特別な声を持っているんだよ。魂の
間だけ、聞こえるって声を。翼だって、二組持っているくらいだからな。天界
でも珍しい、変わった少数派なんだよ、果樹園の天使ってヤツは」
「へぇ」
「今の“何へぇ”くらい?」
「―」
「何で黙るんだよ?」
「佐原さんって、世間に馴染み過ぎなんやないの? もうちょっと、くらいは
気取ってもええと思うよ? 元はお偉い天使やったんやろ?」
「今更、気取ったって仕方ねぇもん。それに。おまえ、佐原さんって呼び方、
かたいってゆーか、距離を置こうとするような呼び方、よしな。壁を感じちゃ
って、寂しいじゃん?」
「じゃ、何て、呼べばええねん?」
「そうだな。佐原共明だから、さっちゃんでいいか。ちゃんとハートを付けて
くれよな。さっちゃんvって」
「え〜ッ?」
「何で、そんな嫌そうなんだよ?」
「アホ臭いやん?」
「おいっ! 大体、何で、てめーはオレにだけ、不服を言うんだよ? コウや
レンには下手なくせに。おかしいじゃねぇか? 普通に考えたら、元親玉で、
今、無敵の堕天使のオレの方に気を遣うはずだろ? 馬鹿かアホじゃなければ
よ」
「つまり、オレは馬鹿か、アホいうことか?」
「だ、か、ら、何でオレにだけ、食ってかかるのかって、聞いているんだよ」
「知らんわ」
「佐原君は顔が庶民派だから、だよ」
「レン!」
「例えて言うなら、ほら、コロッケとかメンチカツとか、焼きそばみたいな。
凄んでも、今いち、笑えるんだよね」

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送