「何、したり顔で頷いてんだよ? えっらそぉーに。生意気な」
「だって、今、謎が解けたんだもん。毎晩、オレだけ除け者にして集まって、
一体、何してんのかなぁと思ってたら。そんな相談してたんだ?」
「あ〜っ。さてはおまえ、聞き耳立てていたな? イヤらし〜な、おい」
「そんなことしなくても、聞こえます! この家、吹き抜けだらけなんだよ。
大体さ、最初こそ、コソコソやっているけど、最後は必ず、大もめじゃん?
あんな大声だったら、家中、どこにいたって聞こえるよ、普通」
多少、誇張も加えて言っておく。じっと耳をすませていた、などと本当のこと
を言う必要はないのだ。
「え、そんな聞こえてんの? マジで?」
レンの様子から察するに、本当に瞬一にまで聞こえるなどとは、夢にも思って
いなかったらしい。力を込めて、大きく頷く。
「うん。最後の方はいつも結構、聞こえてたよ。“そうめん流し”は知らない
けど」
聞こえた断片を思い出しながら、取り出してみる。
「芋掘りは足場がどうとか、花火は時期がどうとか、みかん狩りは何とか、と
か。あと、カラオケはうるさいからダメで、ボウリング場は客層がどうとか、
そんなことも言っていたよね。全部は聞こえないし、佐原君がおじいちゃん、
おばあちゃん達と行く、いつものイベントの企画かなって、思っていたから、
ピンと来なかったんだけど。ほら、佐原君ってば、張り切って、カラオケ屋の
前に集合してたりとかするし」
「賑やかなのが大好きなんだよね、あのヒト。おめでたキャラだから」
「でも、コウ君もボウリングには参加しているよね?」
「まぁ、ね。あいつも結構、勝負事、大好きだから」
「あ、そうだ。レン君、瞬一の隠してる花火を使えばいいとか、そんなこと、
言ってなかった?」
「おまえって。地獄耳ってやつなんじゃないの?」
呆れ顔でレンが言う。
「おかしいよ、それ。何で聞こえるんだよ?」
「オレの聴力は普通だよ。皆の声が大き過ぎなんだよ。そう言えば、コウ君は
あんまり、加わっていなかったような気もするけど」
「してたよー。あいつ、案外ね」
ふと、レンは口を噤み、首を傾げる。
「何?」
「やったー! 帰って来た!」
そんなに喜ぶような大事なのだろうか? いち早く佐原の車の音を聞き付けた
レンはピョンとばかりに飛び上がり、喜色満面のまま、駆け出して行った。
子供ジャアルマイシ。
「超仲良しじゃん?」
やはり、魂の片割れと元親玉ならば、天使同士、特殊な共鳴でもするのだろう
か? 置いてけぼりにされたようで寂しくもある。
デモ。
___オレは人間だから、端からよそ者だもんな。まだ皆、良くしてくれる。
どうってことないって、そう考え直せるし、気分も持ち直せるけど。
ダケド。
 タカシは今も、密かに寂しい思いを重ねているのではないだろうか? あの
日を境に明らかに様子が変わった、そのままなのだ。そんなことを思い、心配
しながらも自分もレンを追って、玄関先へ出てみる。すると、ついさっき飛び
出したばかりのレンが小躍りしそうな勢いで紙袋を掲げ、戻って来たところに
行き当たった。
「やったー。やったー! やっとゲットしたよ、愛しのマロンタルト! マイ
ハニー! スイート!」
ハァッ? 
レンのはしゃぎっぷりに呆気に取られ、ボンヤリと眺めていると、疲労困憊と
言う顔のコウも入って来た。
「おかえり」
「ああ」
力なく瞬一にそう返し、コウはレンを睨んだようだ。
「おい。わざわざ車まで出迎えたのはオレじゃなくて、食い物かよ? おまえ
、さっき、それ、ひったくって行ったよな?」
「だって、これ、超人気の逸品なんだもん。いつも売り切れなんだよ。やっと
食べられる。超嬉しい。やったね!って感じだよ」
「ああ、そうですか。じゃ、飯の支度はしてくれよな」
「何で?」
あんなにはしゃいでいたにも関わらず、傍観していた瞬一がギョッとするほど
すばやく、レンは冷めた様子を見せた。
「オレ、今日、当番じゃなかったけど、ちゃんとタカシを手伝ったよ? コウ
の代わりにかきたま汁、作った。なのに何で、遅く帰って来たからって、二人
の分、また用意しなくちゃいけないわけ? 自分で温めればいい話じゃん? 
用意は出来ているんだから」
「こんなに遅くなったのは一体、誰のせいだよ?」
「渋滞に巻き込まれたからでしょ? 不服があるんなら、交通事故を起こした
その人、本人に言ってよね。その人のせいで渋滞が起きたわけだから。オレ、
関係ないじゃん?」
「何言ってんだよ?」
コウは怒り心頭の様子に見える。かなり小柄だが、それでも眉間に込められた
力が醸し出す雰囲気は険悪で、去年の自分なら間違いなく、涙目になっている
はずだ。
デモ。
オカシイヨナ。
割リト、何デモ、レン君ノ好キニサセチャウヒトナノニ。
「誰のせいで、あんな渋滞に巻き込まれたと思ってんだよ?」
「オレのせいだって言うの?」
「おまえのせいだろ?」
「何で?」
「おまえが『予約したから帰りに寄ってね、ついでに受け取って来てね』って
言うから、あんな効率の悪い大回りして、やっと帰って来たんじゃねぇか? 
あれの、どこが“ついで”なんだよ? 全然、方向が違うじゃねぇか? 店で
も散々、待たされたんだぜ? 電話一本で勝手、言いやがって」
「一本で十分じゃん? 同じ内容、二回も言ったらボケじゃん?」
口が達者なレンにはさすがに即応出来ないらしく、コウの小さな顔はますます
苛立った、恐ろしげな表情へと変わって行く。怪しい雲行きに瞬一がビクつき
ながら成り行きを見守る中、当事者であるレンはと言えば、慣れているのか、
一向に怯んだ様子も見せない。
「何、イライラしてんのかは知らないけど、オレにあたらないでよね、ウザい
から」
「何だと? おまえ、この頃、調子に乗ってんじゃねーのか? あのオッサン
が甘やかすから、余計に付け上がんだよな」
「何、言ってんだか。オレはそぉーんな容易く、自分を見失って興奮したり、
言いがかり付けたり、なんて恥ずかしいこと、しませんから」
「オレを馬鹿にしてんのか?」
「事実を言われて怒るのが、みっともないって言ってんの」
どうやって止めればいいのだろう? 割って入って止められるものだろうか?
イヤ。
___最初から、こんな弱腰じゃいけない。今、オレが止めなきゃ。タカシに
余計な気苦労かけるくらいなら、オレが頑張る!
「ちょっと待って」
勢い込み、割って入ったところで、新たな声が加わった。
「何、何? 何、三人でじゃれてんの? 可愛いねぇ。お? おーっ。今日は
ロールキャベツか? かきたま汁ってやつ?」
車を自分の駐車場に入れ、やって来た佐原がヒクヒクと小鼻をうごめかす。
「ふむむ。卵と、あとジャガイモの匂いがするな。ごまは、ごま和えかな」
「佐原君って、本当、鼻は良いよね」
「鼻は、って限定すんなよ。鼻も、だろ?」
「嘘は吐けません。オレ、正直だから」
「レンちゃんの意地悪ぅ。ま、いいや。とにかく飯だ。今日はきつかったから
な。な、コウ」
「まぁ、な」
「本当、疲れたよ。じゃ、ほら、せーので支度して、飯食って、茶にするぞ。
よって、瞬一」
「え、何?」
ふいに名前を呼ばれ、慌てて、見上げる。
「三十五分後にタカシを連れて降りて来い」
「ええっ? オレ?」
「だって、おまえしか、タカシの部屋には入れないんだから、仕方ないだろう
? レンちゃん御推奨のタルトがあるよって言って、それでダメなら、担いで
でも連れて来い。いいな?」
「問答無用なん?」
「当たり前だろ? オレは偉いんだ。ずーっと生きてるんだからな」
「おまえなんか、こないだ生まれたばっかの下っ端だもんね」
「ミジンコだな」

 

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