「仏頂面で朝飯、食うなよな。せっかくオレが手間を掛けて、わざわざ作って
あげたフレンチトースト☆ゴージャス版なんだぞ。昨日の内から卵液に浸けて
だな。何回も引っくり返して、丁寧に焼いて、ちゃあんと苺のジャムとアイス
クリームも添えたんだぞ。何気に結構、高級品なんだぞ、これ。それなのに。
それなのに。むうっつり、ふくれっ面で食い続ける気なのかよ。本当、あんた
って、失礼だよな。ったく、誰に似たんだか。あ〜あ、感じ悪ぅ」
「だってぇ」
「あ〜れれ、頭でっかちに甘えられても、あんまし嬉しくないもんなんだぁ。
これは朝から一つ、大発見しちゃったなぁv」
「おいっ」
___オレの頭がでっかいんやなくて。お兄ちゃんの頭が小さいだけやんか。
「大体、顔がさ、オレの好みじゃないんだよね。目デカッ、(驚き)みたいな
そーゆー、やたらと派手な顔、苦手なんだよね、オレ。だからじ〜っと見ない
でね。石膏像ちっくで、ちょっとばかし、怖いでしょ、みたいな」
言イタイ放題ヤナ、コノオッサン。
しかし、せっかく用意してくれた朝食を、どう見ても不満げな顔で食べている
自分の方に非があることは明白だ。ここは口答え出来ないだろう。そう考え、
押し黙る。白石はと言えば、朝っぱらから勢い良く、自分で焼いたトースト、
それも二枚目にがぶり、と噛み付く。その大きな噛み跡をチラ、と盗み見て、
こっそり考える。間違っても、こんな丈夫そうな歯には噛まれたくない。
絶対、有リ得ヘンシチュエーションヤケドナ。
どう見ても、白石は太り過ぎで体重は過多だが、その動きは敏捷この上ない。
決して、侮れないのだ。
胆ニ銘ジトカント。
「ねぇ、ねぇ。そんなでっかい目玉だとやっぱし、夜、寝る前に目も洗わない
といけないんじゃない?」
唐突に白石はそう切り出して来た。
「何で?」
「だって、埃とか、花粉とか、虫とか、いろんな物が入るわけでしょ? 露出
している表面積が無駄に馬鹿ッ広いから」
ムッ。
「そんなこと、ありません。普通! ノーマルです。そりゃあ、花粉の季節は
洗うかな、くらいで」
校庭での体育の授業後に洗うこともままあるが、そんなことは教えてやるまで
もない。
余計、突付カレテマウカラナ。
「へぇー。そうなんだ? じゃ、洗い易いとか?」
「洗い難かったことがないから、わかんない」
「そうだよねぇ。生まれ付きのデカ目なんだから、細目の苦労はわかんないよ
ねぇ」
今度。
佐原君ニ会ウタラ、聞イトコウ。
「でさ」
白石の話は大抵、何の脈略もなく始まって、とっとと終わる。そんな人なのだ
と割り切って、瞬一はとろりと柔らかく溶けて、皿いっぱいに広がったアイス
クリームから顔を上げて白石を見た。
「何?」
「何で、むくれてんの?」
「だ、か、ら! タカシがお兄ちゃんの膝の上にいた、って、さっきからそう
言ってんじゃん?」
「ああ、そうだっけ? でも、別にいいじゃん? 膝の上くらいなら」
「な、何、言うとんねん? 膝の上やで? 膝の上。猫やあるまいし、どこの
どなたが、人の膝の上になんか座んねん?」
「そりゃあ、普通はね。でも、相手はまー君だよ? そんじょそこらの、並み
の兄ちゃんじゃないんだよ? そこの所、しっかと考えないと。オレなんか、
もっとビックリ、目が点になります!現場に遭遇しちゃって、心臓止まりそう
になったこと、あるんだから」
どこか、白石は自慢げだ。やはり、かなりおかしい。そう思いつつ、聞かずに
はいられない。
「もっと、ビックリ、って?」
白石はニタリと意味ありげに笑って見せる。自分の予想した通り、やはり瞬一
は食い付いて来た、そう言わんばかりの満足げな笑みだった。
嫌ナオッサンヤ。
根性、悪イワ。
こんな歳の取り方はしたくない。そんなことを考えていると、彼は瞬一の腹の
内がわかっているのか、一層、嬉しげに笑うのだ。
「何たって、まー君ってば、『女に飽きた、もういらない』って、言い放った
男だからねぇ。お陰で最近、すっかり御無沙汰なんじゃないの?」
キッツイ人ヤケド。
コレモ結局、冗談ナンダ、ヨナ? 
動揺を抑えつつ、考える。冗談なのだとしても、それにどう、リアクションを
取って良いものか、わからず、瞬一が硬直している間に白石の口は再び、動き
始めた。
「ねぇ、瞬一君」
「何ですか?」
「君ってさ、タカシ大好き! タカシイズマイラブ!な人だよね? 何てった
って、『何でドア、開けたんや?』って、ちょっと君、それはヤクザ口調なん
じゃないの?って、お育ちを疑いたくなるくらい、怒鳴っていたもんねぇ」
ばつの悪さにもじもじとフォークの先でアイスクリームをかき回した。
「まぁ、そうやけど」
「となるとさ、君、膝の上云々でプンプンしている場合じゃ、ないんじゃない
の?」
「どういう意味、ですか?」
「だってさ、あのヒト、オレが明け方、最後に様子を見に行った時。もう氷は
いらないんだろうね、外そうかって話、まー君としたんだけど、その時は未だ
首が自分で支えられないってゆ〜か、ガクンってなるくらい、弱っていたんだ
よ、タカシ。瞬一が見たのはその直後でしょ? そんな時にさ、自分でグラス
を持って、お水とか飲めるものなのかなぁ、と思ってさ」
白石は一体、何を言いたいのだろう? 
「?」
パチパチと瞬くばかりの瞬一を見据え、白石はややあって、不服そうにため息
を漏らした。
「はぁ、あ。な〜んだぁ、ピンと来ないのか。ったく、弄り甲斐のない。退屈
な奴」
そう言いながら、白石はナプキンで口の周りを拭う。たっぷりの量をすっかり
平らげ、機嫌はすこぶる良さそうだ。
「それじゃあ、お子様にもわかるように言い直してあげようかね。それはね、
瞬一君。まー君がタカシに口移しで飲ませてあげたってことなんじゃないの、
って、そう言ってんの。わかった?」
「、、、」
「おい。何がわかった?だよ。こら、豚。子供相手に口から出任せ、吹き込む
んじゃない」
下りて来た兄に白石の関心は速やかに完全移行したようだ。
「ええ〜っ? オレの推理は大抵、当たっていると思うんだけどなぁ」
「そんなの、どうでもいい話だけど。で、ブゥー。おまえ、何、朝から豚飯、
食ってんの?」
「豚肉なんか、食べていないよ? 御飯も炊いていないし。あれ、御飯の方が
良かった?」
「違う。豚さん養成食で、豚飯」
「あっ。はっはっは。まー君てば!」
笑うところじゃないだろう? 突っ込みたいのは山々なのだが、声も出ない。
ダッテ。
口移シユータラ、キスノ、ソノ先ヤン?
「まー君も豚飯、食べる? ちゃんとタカシの分も用意してあるんだよ」
「サンキュー。オレはコーヒーだけ貰うよ。風呂、入りたいんだ。あ、タカシ
も未だ、食事は無理そうだったな」
「目、覚めたんだ?」
「うん、目は開いた。だけど、あれは寝惚けている状態なのかな」
「寝惚けているの?」
「ああ。だって、じーっとオレの顔を見て、『はじめまして』だって。天使に
お辞儀されちゃったよ。やや天然ボケ、入っているんじゃないの、あの生き物

 

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