ソウダ。
ズット不思議ニ思ッテイタ。
どうして、願い、乞い、やっと出会えた天使は昔、亡くした幼馴染みにこうも
似ているのだろう? もし、隆が事故に遭わず、あのまま生きて大人になって
いたら。そうすれば、きっと、クォーターだった彼はタカシのような姿へ成長
していたはずだ。
___だって、似てる。色白なところとか、目の色、髪の色。いや、色味や形
だけじゃない。俯いた時とか、ふとした瞬間、横顔が、表情が、隆と、隆の
お母さんにそっくりなんだ。
ソウダ。
___モデルさんで忙しくて、めったに家にいなかったけど、でも、優しそう
だったあのお母さんに、タカシは似ているんだ。だから、大人と子供で、歳の
違いがあるのに、それでも似てるって、ピンと来た。でも、どうして?

 考えてみる。会いたい、会いたい、会いたい。出会って、出来ることなら、
友人になって欲しい。ずっと傍にいて、この孤独を埋めて欲しい。隆を失った
哀しみを、心に開いたままの風穴を埋めてもらいたい。そう本気で願い、求め
続けて来た。だが、瞬一は求める天使のその姿までを克明に夢に描いた覚えは
なかった。出会えるのか、否か。それが何よりの関心事で、全てだったから。
正直、出会った後のこと、容姿にまでは気が回らなかった。
___会えてなんぼ、だもんな。それに。
 もし、天使が存在するとすれば、彼らは“人を越えた”存在なのだ。まさか
不器量ということはないだろう。そうタカを括ってもいた。
___嫌な性格ってこともないだろうし。それくらいの認識だった、かな。
絵なんか見たって、何の役にも立たないって思っていたし。
 紙に描かれた天使など、瞬一には意味を成さなかった。それは所詮、作者の
個人的な願望であり、結局は身近な誰か、生身のモデルを美化して描いたに
過ぎない物だから。しかし、それでも何となく頭に植え付けられたイメージは
あるやも知れない。
綺麗ナ。
___でも、やっぱり、そんなのはアートであって、現実じゃないからな。
 あやふやな先入観の下、ようやく思い浮かべる天使の姿はむしろ、瞬一に
とってはマンガか、アニメのキャラクターのようなものだった。決して、現実
的なものではないのだ。
___だって、背中に翼、背負っているんだし。出来ればこう、親しみやすい
感じで来て欲しいとは思ったけど、、、。

 チラと見やった先、レンはごく普通の水色のパジャマを着て、瞬一の様子を
楽しげに窺っている。
「おまえの期待には添えなかったな」
「まぁ、ね。ちょっとばかり、拍子抜けしたかもね」
「どー見ても、オレ達、“今時の人”だから?」
「うん。ちょっと、その言い方が爺臭いけどね」
「おまえはすっげぇ失礼だけどね」
「あ、そう言えば、仕方ないんだよね、本当はえらく年寄りならしいもんね」
「ムカつく。超ムカつく。感じ悪いな、おまえ」
「でも、ラファエルとか、そういう感じのヒトじゃなくて良かったよ。こんな
馬鹿話が出来るし、一緒に鍋も突っつけてさ」
フフンとレンは鼻先で笑い、軽く胸を反らして見せる。
「じゃ、もうちょっとありがたがれ。拝んどきな」
「そういうのはさ、強要することじゃないと思うけど?」
「うるさい」
「脱線してるし」
「おまえがヤブを突っついたんだ」
「鍋じゃなくて?」
「バ〜カ。バカ、バカ」
「何やねん、それ? 子供か、あんたは」
何となく楽しくなって、くすくすと笑い合う。この場にタカシとコウがいない
のが少しばかり淋しかった。
「だけど本当、何で、タカシは隆、オレの友達ね、あの子に似ているんだろ?
不思議だよね。天使と出会えたこと自体が奇蹟なんだろうけど、でも、二人が
似てるってことだって、オレにとっては信じられないような偶然だもんね」
「偶然じゃないよ、それ」
「えっ?」
「おまえが“望んだ”から、そう見えるんだ」
「どういう意味?」
「人間にはさ、元々、天使の姿を“まともに見る”だなんて、図々しいことは
出来ないから」
「まともにって? どういう意味?」
「つまり、人間は天使をそのまま、あるがまま正確には見られないってこと。
色は正しく視認出来る。でも、形はそうじゃない。ほら、地球は丸いって皆、
信じているけど、実際には“縦”より“横”の方が長い。つまり、横っ広い
ものなのに、人の目には球体にしか見えないだろ? それくらいの誤差がある
んだ、事実と目に見える姿との間にはね」
「じゃあ、オレが見ているタカシは、実体そのまんまじゃないんだ?」
「そう」
レンはコクコクと頷いた。
「それだけの話なんだけどね、その誤差ってゆーのが実はくせものでさ、その
人間次第なんだよね」
「その人間次第?」
「そっ。もし、他の誰かがタカシを見るとする。すると、その人が見ている
タカシと“おまえが見ているタカシ”とは少しばかり、違うんだよ。大差は
ないけど」
「どうして、そんなことに?」
「だーかーら、人間には天使の姿をそのまま見ることが出来ないの!」
「どうして?」
「おこがましいってゆーんだよ。図々しいな、人間ってヤツは。オレ達と対等
な気でいるんだもんな。一億年早いって言うの」
「レン君て、感じ悪い」
「そ?」
「もう慣れたからいいけど。それで何で、タカシは隆に似ているんだよ?」
「まともに見られないからこそ、の特典だな。人間と天使は暮らす世界が違う
から、当然、めったに出会うもんじゃない。そこをもし、出会ってしまうと
したら、その時はその人間が最も大切にしている思い出とかさ、そういう胸に
秘めたイメージを重ね合わせつつ、最大限、理想通りの姿で見られるように
なっているらしい。神様のお計らいだよ。粋だろ?」
「その言い方は爺臭いけどね」
「おい」
「じゃ、オレが隆のことを気にしていたから、タカシは隆に似て見えるって
こと?」
「そう。ね、おまえ、どうして、タカシなんて名前、付けたの? 他の名前に
してくれれば、こんな紛らわしくなかったのにィ」
「そう言われても。オレにとっては一番、大事な友達の名前だったし」
「ま、今更、いいけどね」
「でも、ちょっと待って。だったら、あんたらも隆に似て見えるはずなんじゃ
ない? 三人とも同じように見えるはずなんじゃ?」
レンは意外にも考えるようなそぶりを見せた。
「うーん。タカシは、おまえの“初めての天使”だもん。当たり前に“そう”
見えるんだよな。セオリー通りなんだよな。オレ達が“二人目”以降だから、
かな? 普通、有り得ない状態だもんな。オレ達、病室には一人でつめるし」
しばらく宙をさまよわせた視線をふいに瞬一に戻し、レンはニコリと笑った。
「わかったの?」
「うん、おまえさ、ガチガチの良い子じゃん? だから、結構、こーゆー、
今時のお兄ちゃんタイプに憧れてんじゃないの? 自由気ままに生きてみたい
って、内心、思ってんじゃないの? 願望なんだよ、きっと」

 

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