門扉を閉める。ガチャン、その音を合図にレンが口火を切った。
「毎日、毎日、飽きもせず、朝っぱらからいっちゃいっちゃいっちゃいっちゃ
しやがって。タカシに“お見送り”させるだなんて、おまえ、一体、何様だ?
お馬鹿な新婚さんか? そぉんなに熱々か? ラブラブモード炸裂なのか?」
ソウ来ルカ。
瞬一は一つ、こっそりとため息を吐き、ひとまず、いきなり突っ掛かって来た
レンの攻勢が治まるのを待つことにする。
___こんなハイテンション突撃ペースに太刀打ち出来るわけ、ないもんな。
オレ、土台ガ無口ナ方ダシ。
「一昨々日、ハンカチ忘れてるぅって、タカシに取りに戻らせただろ? 昨日
はネクタイ直してもらっていただろ? 忘れたとは言わせないからなっ。特に
昨日の分! デレデレしやがって。イヤらしい。鼻の下、伸び切っていたよ、
このドスケベ! ケダモノ! そぉーだ。ついでに寝癖も直してもらっていた
だろう? 図々しいな、本当にっ!」
ハ?
思い当たることはある。確かに昨日の朝、玄関先で見送りに出て来たタカシに
曲がっていたネクタイを直してもらった。
___覚えはあるよ。だって、心の日記に記して置きたいような名場面だった
もん。髪もここ、はねてるって教えてもらって、撫で付けてもらったし。
きっと言われる通り、すっかりとろけて、のぼせた間抜け面をさらしていたに
違いない。だが、その現場、玄関にはレンはもちろん、コウもいなかったはず
だ。
___いなかった、よな? だって、どっちか、一人でも一緒にいたら、ハン
カチがないからって、取りに行ってなんかもらえない。いくらタカシが自分が
取って来るって言ったからって、行かせるはずがないよ。“ヤキモチ妬き”に
噛み付かれかねないんだから。ましてや、ネクタイを直してもらうだなんて、
そんな命に関わるようなこと、してもらうわけがない。
つまり、確かに、そこに二人はいなかったのだ。
ジャ、ドコデ見テイタンダ? 
___どっかに隠れて見ていたのかな? もしかして、“家政婦”? 覗いて
いたのかな? 柱の陰とか、そんな所から?
「おい! オレはおばさん女優じゃないぞ。こぉんなに可愛いvのに。失礼だ
な!」
“アンタ”ガ、失礼ナンダヨ。
自分の頭を撫で撫で撫でながら、本気で言っているようにしか見えない天使に
呆れながら、瞬一も必死にその場しのぎの対抗策を練る。マシンガントークに
は到底、敵わない。
デモ、コノママ負ケテハイラレナイ。
これから先も、この天使との付き合いは続くのだ。連戦連敗は当分、仕方ない
ことだとしても。負け方は重要だと考える。
セメテ、“事実”デ、着実ニ、対抗シナクッチャ。
カッとなっては、墓穴を掘る。
オレノペースデ行カナクチャ。

「大袈裟な。大体、オレだけ、特別ってわけじゃないだろ? タカシは公平だ
よ? コウ君が出掛けるあんな、ニワトリさんだってまだ眠ってるって、早朝
でも、レン君が出たり入ったり、一日に何回も出掛ける、その度毎、タカシは
玄関先まで付いて来て、ニッコリ笑顔で『いってらっしゃい』って、同じよう
に送り出してくれるじゃん? レン君に不服を言われるような、やましいこと
は何もないよ。オレ、間違ったこと、言ってないよね?」
「あっ、そう。じゃあ、次!」
「次って、、、」
レンは随分、負けず嫌い、ならしい。
モウ、知ッテイタヨウナ気モスルケド。
「そうだ!」
ポンとレンは両手を打った。ネタは無尽蔵、でもあるようだ。
ダテニ歳、喰ッテイナイヨナ。
「そうだよ。そうそう。思い出した。何で、タカシがおまえなんぞのハンカチ
にまで、御丁寧にアイロン掛けたりとかしちゃってるわけ? そうだよ。何で
タカシがおまえの制服、プレスしてんのさ? それも毎日、き〜っちり。オレ
達の服にはしてくれないのに。ずるい! 何でおまえだけ、えこひいきされて
いるんだよ?」
「それは、二人がアイロンを掛けなきゃいけないような服、着ていないから、
だろ? Tシャツにアイロンは掛けないだろ、普通。Gパンにプレスは必要ない
し」
「失礼な。オレ達、結構、お高い服、着て、い、ま、す。それにね、アイロン
掛けなきゃいけない服にはちゃ〜んと自分で掛けてますぅ。だから、おまえも
自分でやれ!」
「そりゃあ、、、」
確かにレンは自分でやっている。苦にならないらしく、たまにはコウの分にも
アイロンを掛けていた。
「怠け者! やっぱり、おまえは図々しいんだ」
「でも、でも。自分でやらないオレが一番、悪いけど。でも、それが嫌なら、
嫌だって、タカシに直接、言えばいいだろ?」
ソウ、ソレガ真理ダ。
丸ゴト、甘エテイラレナクナルノハ惜シイケド、、、。
「自分のことは自分でさせろって、タカシに言えばいいじゃん?」
「言えるか、そんなこと」
「何で?」
「ヤキモチ妬いてると思われたら、困るもん。恥ずかしいだろ? 恰好が悪い
じゃん?」
妬イテルンジャンカ?
ソレモ、思イッ切リ。
「妬いてませ〜ん。そんな人間みたいな次元の低い感情、持ってませ〜ん」
「嘘吐き」
「うるさい!」
「言っておくけど、オレがタカシにあれして、これしてってせがんだわけじゃ
ないからね。タカシの好意に甘えているのは事実だけど。でも、それもオレの
アイロン掛けが下手っぴぃで、タカシが上手くって。見るに見かねて、それで
タカシが代わってくれたって、それだけの話じゃん? それに」
瞬一は声を落とした。
「タカシが嬉しそうだったから。だから、これでいいのかなって、そう思った
んだよ」

 

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