もうじき、今日と言う名の一日が終わる。少なくとも昨日の夜、明日の予定
としてチェックした用件は全て、消化した。そろそろ背負ったリュックが重く
のし掛かって来る時間帯。
疲レタ。
デモ。
___でも、もう少し。もう少しだけ、頑張れば。
ソウ、我ガ家ニハ天使ガ一人、オレノ帰リヲ待ッテイル。
___もう二人、いるにはいるけどね。おまけだよ、あんなの!
思い出すと、また腹が立って来る。
ムカツク。
___今朝も、レン君に意地悪された。
彼の話に引き込まれ、危うくいつもの電車に乗り遅れるところだった。あれは
計算尽くの行動に違いないと思う。
嫌ガラセダヨ、絶対。
___だって、もう二分遅れたら、後の全部に乗り損なうって、ギリッギリの
時間だったじゃん。それを逆算して、わざとやったんだよ、間違いない。
しかし、どうにか乗り込むことが出来るギリギリを見計らってくれたのなら、
鬼とも罵れない。
___見かけは可愛いのに本当、底意地悪いよな、あのヒトも。オレのこと、
本当に羨ましいんだな。つまり、妬んでやっていることなんだよな、結局は。
二人の“意地悪”には毎度、閉口している。
デモ。
___それって、ママの愛情一人占めの“新入り”赤ちゃんにヤキモチ妬いて
ついつい、意地悪しちゃう新米お兄ちゃんの心理みたいなもんだよな。すると
オレがママを一人占めにしている赤ちゃんか? 別に、一人占めはしていない
と思うけどな。何たって、二人が邪魔しまくるから。なかなか二人っきりには
なれないじゃん?
二人は意地悪だ。
___でも、いてくれるから、安心なんだし、な。
二人は雑なようで、かなり細かく、有能だった。前夜の内にきっちりと翌朝の
ゴミ出しの支度をし、折り込み広告を見て、買い置きをこなす。
___おかげで無駄な買い物とか、減ったよな。前はアレがない、コレがない
って当日、慌てることが多かったけど、そーゆーの、なくなったし。冷蔵庫の
中で野菜をダメにするとか、その手の失敗は有り得なくなったし。
ソレニ。
あの二人がいるからこそ、今日一日、タカシと連絡が取れなくとも、どうにか
過ごすことが出来たのだ。
___もし、二人がいなかったら。とてもじゃないけど日柄一日、学校の固い
椅子に座って、帰る時間を待つなんてこと、出来なかった。
電話が通じないとなれば、その時点で授業を放り出し、学校を飛び出していた
に違いない。しかし、二人が一緒だから、だからタカシは大丈夫、無事なのだ
と自分に言い聞かせ、どうにか一日、堪えることも出来た。
アリガタイヨナ。
ダケド。
___何で、タカシは携帯の電源、切っていたんだろ? 
 後輩天使、二人組が居着いてからも、瞬一は日に何度となくメールを送り、
電話も掛けた。それに答えるべく、タカシはずっと携帯の電源を入れておいて
くれた。
待ッテイテクレタ。
___なのに、何で、今日に限って?
家に確認の電話を掛けてみてもよかったが、コウかレンが出たらどれくらい、
冷やかされることかと怯え、結局、電話は出来なかった。
___大丈夫、だよな? あの二人が、せめて、どっちか一人は傍にいるはず
だから。二人共、甘えん坊だもん。オレがいない隙にこれでもかってくらい、
べったりくっついて、甘えているはずだよな。
 当人達を前にしては決して、言えない不服をこぼしながら歩く先、ようやく
めざす我が家が見えて来た。
アレ? 
ガレージは空っぽだ。例の水色の車が見当たらない。
___コウ君、出掛けているのかな? 夜は絶対、家にいるのに。
運転技術に難のあるレンはもっぱら、自転車派だ。
___オレの、なんだけど。まっ、何でもいいか。タカシがいれば。
すぐそこで天使が自分の帰りを待っている。そう思うと、重い足も軽くなると
言うものだ。
早ク帰ッテ、喜バセテアゲナクチャ。

 ウキウキと小走りにガレージを抜け、玄関へと駆け寄る。鍵を開け、すぐに
当然、そこで輝いているはずの笑顔がないことに気付いた。
「あれ? タカシ? タカシは?」
足元には赤、青、黄のスリッパと、ベージュの室内履きが一列に並んでいる。
一つだけ異なる、それがタカシの履き物だ。『踵がないスリッパじゃ、危ない
よ。滑っちゃ大変だからね』と二人が用意した、それ。
___どういうこと? 
マサカ? 
 二人がタカシ一人を家に残して出掛けることも有り得ないが、タカシが庭に
下りるのも嫌う、あの二人の束縛ぶりを思うと、タカシ一人で出掛ける可能性
は更にない。となると三人連れ立って、つまり、コウとレンがタカシを連れて
出掛けたことになるのではないか?
マサカ、ネ。
二人にはタカシを外へ出す気など、まるでなかった。
デモ。
胸に覚えがあった。
オレガ言ッタンダ。
今朝。
タカシを外に出してやれ、と。そして、その時、レンは真顔で答えたはずだ。
“コウと協議する”と。
___外に出してあげようって、言ったのはオレだよ。でも、まさか、、、。
いきなり、突然、オレだけ、置いてけぼり? 嘘ぉ! 
ヤラレタ。
あの二人を出し抜いて、タカシを連れ出すのは至難の業だとは思っていた。
___べったりだからな。でも、その内、せめて、そこの公園くらいは連れて
行ってあげて、そこで花火とか出来たらいいなぁって、思っていたのに。
まさか、二人がタカシを連れ、先に、それも三人だけで出掛けるなどとは想像
もしていなかった。
___出し抜かれた、、、。
傷心のまま、ダイニングの明かりに釣られるように、トボトボと歩み寄る。
ドウセ、タカシハイナイケド。
ふと気付く。視界の端、テーブルの上に見覚えのある携帯電話を重石に、白い
紙が置かれている。慌てて、駆け寄り、手に取って。
『レンで〜す。美味しいカレーを作って置きました。先に食べといて下さい。
それじゃ、行って来ま〜す。(^ Q ^)/゛psベェ〜だ』
「何や、これ?」

 

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