食卓で繰り広げられる、既に馴染みのじゃれつきコント。
___最初はケンカしているんだと思って、生きた心地がしなかったんだよね
ぇ。そういや、タカシはケロッとしてるなって気付いて、ああ、じゃれている
だけなんだって、ようやく理解出来たけど。
結局、仔犬の兄弟が互いの腰をガブガブと噛み合い、じゃれ合って楽しむのと
何ら変わらないスキンシップなのだろう。
___どうでもいい話だけどね。それより、オレに一言、言っておいてもいい
ことがあるんじゃないの? 
待ちわびる。しかし、待てども暮らせども、二人のじゃれつきコントタイムは
終わらない。
___よくネタが尽きないよな。
 そのスキンシップは楽しいものならしい。だが、いくら楽しいと言っても、
これだけ延々、続けていれば疲れるはずだ。つまり。
絶対、シカトシテヤガルンダ。
「どこ、行っとったんや?」
「おっ?」
「急に割り込むね、君」
「しかも、何気に低音、大阪弁♪ 怖〜い」
「腹に据えかねているって? よっぽど、“それ”が気になっていたんだろう
な」
「カレー食うのに夢中だとばっかり、思っていたけどな」
「実は“それ”ばっかり考えていたんだ」
「可愛いなぁ、ヤキモチ瞬ちゃん」
「拗ねたり、妬いたり忙しいね〜、青春は」
肩を揺らし、込み上げて来る笑いを懸命に堪える二人組。
子供扱イシヤガッテ。
だが、どうしても“それ”を、行き先を知りたい。
ダッテ。
___知る権利ってものがあるだろ? だって、オレ、待っていたんだから。
恐らく。
ここで腹を立て、席を立っては二人の思うツボなのだ。
「どこに行っていたんだよ? オレだけ置いてけぼりくったんだ、それくらい
聞いたっていいだろ?」
「拗ねてるんだ?」
「瞬ちゃん、拗ね拗ねしてるぅ〜」
「いじけてるぅ〜」
「うるさい、どこやねん?」
「良い所v」
二人はニカリと揃いの笑みを浮かべ、御丁寧に声まで揃える。
オチョクリヤガッテ。
___意地でも聞き出してやる。
「具体的に言えや」
「そんな怒るなよ。血圧上がっちゃうぞ?」
「若くたって、危ないんだぞ?」
「二人が普通に答えへんからや」
「大した所、行ってないよ。な、コウ」
「ああ。オレとレンの仕事場を見せてあげただけ」
「仕事場?」
「そっ」
「つまり、今、オレが担当している工事現場と、コンビニ。おまえ、行きたく
ないだろ? 見たくないだろ? 羨ましくもないだろ?」
マァ、確カニ。
それに、“そこ”を見せてあげたいと考えついた心理はわからなくもない。
___“異界”で頑張っているんだもんな。ここで、こんなに頑張っているん
だって見せたいし、見て欲しいよな。
しかし、その二ヶ所が出掛けた先の全てだとは思えない。それならわざわざ、
夕飯の支度をして出掛ける必要はないはずだ。
___ぐるっと回れば、一、二時間。どう遠回りしても、せいぜい半日だろ?
本当はもっと遅くなるつもりで、カレーを用意して行ったんだろ? 
「他は? 他にもどこか行っただろ?」
「あとは」
コウはちら、とレンを見やる。
「タカシがさ〜」
レンのわざとらしく語尾を伸ばした口調に嫌なものを感じる。
「瞬ちゃん、察しが良くなったねぇ」
レンはにやにやと笑いながら、コウを見やった。
「どうしても行きたいって言うんだよね〜」
「そうそう」
「どこやねん?」
「おまえの学校」
「はっ?」
「タカシがね、どうしても見たいって言うんだよ。だから、仕方ないじゃん?
渋々、見に行ったよ、おまえの間抜け面をさ」
「いつ? 何時頃?」
「う〜んとね。ちょうどいいところ」
「何やねん、それ? いつ来てん? オレは知らんで」
「えーっとねぇ」
レンはわざとらしく、いかにも考えているという素振りを作って見せる。
「瞬ちゃんが〜、昼休み〜、渡り廊下で〜、二年生の女の子を〜、まるでボロ
雑巾のようにポイッと捨てているところ。その現場を見ちゃいましたv」
「見ちゃいましたv」
呆れたことにお揃いのポーズ付きだ。Vサインの右手を右目に添えて、左目は
ウィンク。
___おまえらは、お馬鹿女子高生かっ?
大体。
、、、。
「捨ててへんわ!」
「お、過剰な反応。真っ赤だよ。茹で立てだよ、君」
「やましいことがあるんだ? あんな捨て方して、悪かったなって?」
「何、言うとんねん? 付き合ってもいないのに、捨てられるか。話を作るな
や!」
「じゃ、正確に言おう。瞬ちゃんがぁ、彼女の告白をむげに断っている現場を
見ました」
「見た、見た、しかと見た」
「冷たいんだねぇ、瞬一は」
「何でやねん!」
「出た、決まり文句。てゆーか、それしかないわけ?」
「オレ、他のセリフが聞きたいなぁv」
「ほらぁ、コウも可愛くvおねだりしているんだからさ、他のを聞かせてよ。
何か、新ネタないの?」
「はぁ?」
「昔はこんなん出来ましたって、見せてくれたじゃん?」
「ネタ帳抱いて、寝ていたじゃん?」
「何の話やねん? オレはお笑い芸人ちゃうで」
「そうだよな。モテモテ高校生だもんな。よっ、色男! 年に何人の女の子を
泣かすんですか? あの子、今年、何人目? もう忘れた?」
「人聞き悪いこと、言うなや。申し込まれて、けど、断っただけやん?」
「他に好きなヒトがいるって?」
言葉に詰まる。話はヤバイ方へ誘導されている。そう気付いた。

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送