「どっちが可愛いとか、性格がどうとか、そういう次元の問題じゃねぇだろう
が」
「そうだ、そうだ」
「大体な、果樹園の天使をだ、そこいらの小娘なんぞと比べられてたまるか!
っつーんだ。天界でも特に大事なヒトだって、毎度、毎度、言ってんじゃねぇ
か」
「そうだ、そうだ」
隣で調子良く拳を突き上げ、同意するレンをコウはちらり、と見やった。
「何?」
「おまえ、マジ?」
「は? 何、それ?」
レンのリアクションに、コウは大袈裟なため息を返した。
「どうにかしてくれよ、そいつをさ」
「何言ってんだよ、コウが泣かしたんだろ? そっちこそ、どうにかしてくれ
よ、年の功でさ」
コウはたちまち、細い眉を吊り上げた。
「ふざけんなよ! オレ達、同い年だろ?」
「御冗談でしょ?」
レンはすげない。
「コウの方がず〜っと先に生まれたじゃん?」
「確かに、身体を“頂いた”のはオレが先だよ。だけど、魂の時代は、“果樹
園”にはほとんど一緒にいたじゃねぇか? 人間だったら、そういうの、魂の
双子と呼んでだな、普通以上に強い絆がどうとかって___」
レンはコウすら取り合わず、ついと瞬一へ視線を戻した。
「おまえ、マジ泣きはやめてくれよ。迷惑だよ。オレ達、困ってるじゃん?」
「本当、勘弁してくれよ。ほら」
ポイと差し出されたティッシュボックスをしゃくり上げながら受け取り、瞬一
は更なる嗚咽を漏らす。
「泣くと色男、台無しだぞ」
「不細工になるぞ」
「タカシに嫌われるぞ」
「ほら、早く泣き止めよ。タカシが帰って来たら、変に思うだろ?」
「そうだよ。ほら、瞬一。頼むよ。なっ」
 要するに二人がかりで子供一人、泣かしたと、タカシにばれては困る。それ
だけの話なのだ。そう切り返してやりたい。しかし、反撃したくとも、嗚咽に
喉を塞がれて、上手い具合に声が出て来ない。
オレ、泣キ過ギダヨ。
 さすがに恰好が悪い。後から後から涙が溢れ、鼻水も落ちて来る。生理現象
だとわかってはいるものの、これでは不細工と言われても仕方ない不様な有り
様だ。当然、二人に言われなくとも、何とか泣き止みたいと思うのだが、もう
自力ではどうにもならなかった。涙は止まらないままなのだ。
「どうしたんだよ? おまえはとびっきり打たれ強いタイプだろ?」
「そうだよ。最近、食い付いて来るようになっていたじゃん? 一層、小生意
気になっていたくせに、どうしたんだよ?」
「こいつは骨がある。見込みがある奴だとオレ、高く評価していたんだぞ?」
「オレだって。だって、おまえはそんなヘナチョコじゃないだろ?」
___どうせ、御機嫌取りの口から出任せなんだろ? 
騙サレヘン。
「そうじゃないって。な、コウ」
「おう」
「先々、楽しみだと思っていたくらいなんだから」
「それが何で、今日に限って、そんなマジ泣きするわけ? もしかして、オレ
達、言い過ぎてんのか?」
「どの辺がどう、言い過ぎなわけ? 言ってみな」
「言っておくけど、オレ達、言いたいことの半分も言っていない。子供相手だ
と思って、ちゃんと手加減しているぞ?」
ソレデ? 
「十分、だろ? オレ達だって、仕事以外でこんなにべったり、人間と一緒に
過ごすなんて未経験だからな。扱いに困りつつ、それでも頑張ってんだから」
「人間と普通に同居なんて、有り得ないもん」
「研修以来だよ」
「ああ」
研修?
その一言から何を思い出したのか、二人は同じように黙りこくった。
___何で、急に黙んねん? 
我が身を振り返れば、別に泣きたくて、泣いているわけではない。ただ、涙が
止まらないだけだと思う。
___大体、何で、オレ、こんなに泣いているんだろう? 
大シテ、哀シイワケデモナイノニ?

 どうして、こんないつもの、残念ながらもう慣れてしまった毒舌、しかし、
向こうにとってはただの、ちょっかいくらいのことで自分が泣いているのか、
本当のところ、瞬一自身にもよくわからない。
___隆が死んだ時だって、泣いていないのに。
ソウ。
泣けるはずがなかった。
ダッテ、オレガ知ッタノハ、モウ何日モ過ギテカラダッタカラ。

 

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