つまり、いつものことだと思っていた。つまらないことをきっかけに口火を
切り、タカシが怯え出す寸前まで叫き合い、罵り合って、だが、結局は大笑い
して幕を下ろす、日常の、コントじみた騒動。
コノ頃ハ、嫌デモナイシ。
慣レタ、カナ? 
___男兄弟って、歳が近いと、こんななのかな? 
 もしかしたら、瞬一はこんな疑似体験を楽しんでいるのかも知れない。そう
やって、どうにかこうにか対応し、それなりに楽しめるようにもなった賑やか
な騒動。それは始まりはこう、終わる時はこう、と既にパターンの決まった、
未知なる不安を覚えることのない、安定したワンパターンであるはずだった。
だが、今日に限って、そのラストは大きく異なった。
「もう、いいよ」
エッ?
「コウ?」
「タカシは最近、オレにばっかり、意地悪する」
拗ねた一言を残し、コウが勢い良く席を立ったのだ。
「コウ」
 慌てて、立ち上がったタカシをのんびりと、レンが引き止めた。
「いいよ、タカシ、追わなくても」
「でも」
「単に食べ終わった、ってだけだよ」
レンはすました顔で水色の箸を口元へ運ぶ。
「あいつ、最近、食べるの、早過ぎなんだよ。職場が職場だから仕方ないって
言えば、それまでだけどさ。よーい、ドンで食べるクセが付いちゃったらしい
ね」
瞬一の脳裏にも、あの職場がポコリ、と浮かぶ。
___そりゃあ、な。
あの気忙しい現場の脇では、とても悠長に食べてなどいられないだろう。
___あんな所じゃ、な。
騒音で煩いどころか、排ガスまで食べてしまいそうな場所なのだ。
「早く食べ終わると褒められる職場ってゆーのも、どうかと思うけど、オレ達
は天使だからさ。褒められるとつい、どんな些細なことでも、つまんないこと
でも、ますます張り切って、頑張っちゃうんだよね。習性みたいなもんなんだ
よね。果樹園のタカシにだって、何となくはわかるでしょ? 褒められたり、
ありがたがられるとすっごく意気に感じちゃう、この気持ち。特に南ッ側の、
オレ達はね」
「でも」
「放っておけばいいって。あいつ、引きずらないから。一人起き上がりこぼし
って呼ばれてんだから」
レンが言うのなら、そうなのだろうと瞬一は納得するが、タカシの方はそうも
行かないらしい。
「でも。様子を見に行った方が」
「大丈夫だって。ああ見えても、コウは将来を嘱望された、スーパーエリート
なんだよ? 自力だけで人間界、大脱出が出来るんだよ? それをこんなんで
慰められたりとかしたら、恰好悪いよ。『ママが可愛がってくれなくなった』
って、チビちゃい弟を苛める腕白兄ちゃんみたいじゃんか? ここはさらっと
流してやんなよ」
御馳走様でした。手を合わせ、レンはふっと一息吐いた。
「はぁ、大満足」
「レン」
「いいから、座んなよ。疲れるよ、ほら」
促され、ようやくタカシは席に着く。
「ま、コウも子供っぽいよね。でも、この分だと、ま〜たっ大天使様に御指導
されちゃうね、絞られちゃうね、あいつ」
その光景は想像に難くないのだろう。タカシは眉を寄せ、一層、辛そうな表情
を見せる。
「僕が悪いんです。コウのこと、傷付けてしまって」

 

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